これからは裸眼で快適に生活


これからは裸眼で快適に生活ブログ:24-2-14


「ごま漬けに酢は入れんのかい?」
それはママの認知症を決定づけた一言だった。

お姉さんやいもうとからは、
最近ママが少しおかしいと聞いていたが、
遠く離れたミーは、あまり気にもとめていなかった。

九十九里の名産であるごま漬けは、
小指程度の小さな背黒イワシを丸ごと、
頭と内臓をひとさし指でキュッと取って、
塩水に一夜、酢水に一夜つけ…

一段ずつ、きれいに並べ、
ゆず、はりしょうが、ごま、とうがらしの輪切と順番に振り、
一段、又一段と、気の遠くなるような作業を繰り返し…

そして
しばらく置くと、
お子さんもお年寄りも骨ごと食べれる
イワシのごま漬けの完成となる。

ママの味はどんな有名な店のものよりもおいしく、
ママ自身もそれをわかっていた。
だからミーが実家へ帰るからというと
必ず手土産にと作ってくれておいた。

いつ頃からか少し味がかわってきて…
ん?何かが違うという感じが、現実のものとなったのだ。
50年やってきた当たり前が、ママの記憶から消えた。

たばこの自動販売機に古い500円札を入れて
入らないと泣きだしそうになったり、
お札に火をつけて燃やしてしまったり、
ママの中で一体何が起きているんだろう?

親父が亡くなって七年、
独りで淋しかったんだね…ごめんね…

今はまだ、
ママの中にミー達はいるんだろうか?
ミー達の笑顔はママに届いているんだろうか?
ミー達の想いは…

忘れんぼうになったママは
「ありがと」「ありがと」とそればかり…
もういいよ。

ママのシワシワになった笑顔の中に
ミー達がいつまでもいられますように…

「ありがとう」は、ミー達の方だよ。



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